〜6章 その1〜
アトラスはひんやりとした洞窟の中で目を覚ました。
あたりはほんのりと明るく、そして空気はさっきの溶岩の洞窟に比べるとさわやかで心地よい。近くで水がポタリポタリと滴る音がこだましていた。
アトラスは、身震いをして立ち上がった。それにしても、ここはどこなのだろう。辺りを見回してみる。すると、すぐにゲーンの姿を認めた。アトラスのいるところから、10メートルもしないところにある池のほとりにたたずんでいる。その池は、まるで湖面から光が差しているかのように、輝いていた。
両足はまだズキズキと痛むし、頭は異常に重いけれど、大丈夫みたいだ。アトラスは、懸命に記憶を探って、ここまでの過程を思い出した。
―そうだ!僕は、溶岩の海に落ちかけていたんだ!
足がぐらつき、後ろによろめいた時、落ちそうになったアトラスを、ゲーンが助けてくれたにちがいない。
そこまで考えると、アトラスは下を向いて笑っていた。それは、アナがよくやる仕草だった。
アトラスは、ふとゲーンについて考えてみた。突然やってきて、アトラスの人生に大きな変化を与えようとしている、つい先日まで知りもしなかった人…。
彼は、風変わりで、行動は突飛で乱暴ですらある。でも、彼がこんなに変わっているのには何か理由があるのだろう。もしかしたら、人付き合いに慣れていないだけなのかもしれない。そして、「息子」という存在の扱い方に慣れていないのだろう。それなら、アトラスだって同じだ。突然現れたこの「父親」という存在に戸惑いを感じているのも事実だから。
もしそうなら、ゲーンの手荒い行動をもっと大目に見てあげなくては、とアトラスは思う。少なくとも、もっとお互いをよく知るようになるまでは。そして、血のつながりだけではなくて、もっと心からの繋がりを感じられるようになるまでは。
そう考えると、少しだけ元気が出てきた。体にかけてあった毛布を投げ出すと、アトラスはゲーンのほうへよろよろと近寄った。そして、静かにそばまでやってくると、不思議に光る湖面を見ながら、声をかけた。
「この池、何で光っているの?」
ゲーンは、その言葉にハッとしてアトラスのほうへ顔を向ける。どうやら、なにか考え事をしていて、まったく気づいてなかったらしい。
「ああ…、アトラス、起きたのか」
「うん…、僕、父さんにお礼を言わなくちゃいけないね」
すると、ゲーンは少しだけ肩をすくめて見せると、湖面の方へに顔を戻し
「また、話ができてよかった…」
と言いながら、顎を突き出すという見慣れない仕草をした。
「ここでは、ずっと一人でいたからな。長い間、仲間が欲しくてしょうがなかった。聡明な仲間が。お前が生きていると知った時…、そうだ…」
といって、アトラスのほうへ向き直る。
「そう、正直、お前が生きているなんて思ってなかった。だから、そうと知ったとき本当に驚いた。それに、とても嬉しかったんだ。俺たちは、ゆくゆくはうまくやっていけるさ。きっと」
アトラスは、照れながらも微笑み、
「そうだね。それに、父さんから色々と学びたいから」
「いいぞ。それは健全な願望だ」
そう言って、続ける。
「ところで、出発できそうか?今まで、俺はお前を急かし過ぎたかもしれないな。それには訳があったんだが」
「僕は、大丈夫だよ」
アトラスは、ふいに父親の優しさを感じながら言う。
「ただ、ちょっと知らないことばかりだったから…」
「それは、裂け目を出てからはそうだっただろうな。だが、その中でも一番お前にとっ
驚くべきことはこの先にある。一番凄いこと、と言うべきか。それは、ドニだ。今晩にでも着くだろうよ」
「え!今晩!?」
それをきいて、アトラスの顔がパッと明るくなった。しかし、次の瞬間彼は考え込んでしまった。
「それにしても、今は一体何時なの?朝なの、それとも夜なの?もう分からなくなってきたよ。ここでは、朝も夜も違わないから」
ゲーンは、ドニ製の時計を取り出すと、アトラスに手渡した。
「見てみろ」
時計の上に書かれた円が5分割されている。そのうち、2箇所は明るく、3箇所は暗く色分けされていた。中心から伸びた針が、明るく色づけされたエリアのうち2番目のところを指している。
「今は丁度ドニ時間で正午だ。俺たちドニは、地上に住む奴等とは違う時間を使っている。奴等は、太陽の動きに合わせて時間を区切っているが、ドニはまわりの生態リズムにあわせた時間配分をしているんだ。だから、1分割の時間は、地上での6時間より長い」
「つまり、ドニの1日は長いってこと?」
「そうだ、アトラス。物分りが早いな」
ゲーンは、アトラスから受け取った時計を、まだ動いているか確認するように振った。そして、動いているのがわかると、ポケットにしいまって、アトラスのほうへ向き直ったのだった。
「さて、出発するか」
- 2006/10/29(日) 10:37:44|
- アトラスの書
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