第5章 その1
旅立ちの日の朝、アトラスは母の墓にお参りをしているシーンから始まる。そこへ、
「アトラス来い!行くぞ!」
と父ゲーンが容赦なく出発を促す。
立ち上がったアトラスにアナが近づき、二人は別離の抱擁を交わした。「もう会えないかもしれない」という思いが、アトラスの気持ちを混乱させる。その気持ちを察してか、アナはアトラスを強く抱きしめてから、体を離すと彼の両腕に手を置き微笑みながらやさしく言った。
「大丈夫よ、アトラス。心配しないで。貯蔵庫はいっぱいだし、それにあなたの発明のおかげで暮らしやすくなったから。これから何をやってすごせばいいのかわからないけど・・・。それに、お父さんがね、あなたを3ヶ月でここに返してくれるって約束してくれたから。」
「3ヶ月で!?」
この良い知らせに、アトラスの顔がパッと明るくなった。
「そうよ。だから心配要らないわ」
そういって、アナはアトラスにリュックサックを手渡した。中には、アナが孫の旅のために選りすぐった物がたくさん入っていた。ほんの昨日作ったばかりのケーキまで入っている。それに、アナは、彼にリュックサックに綺麗な刺繍まで施してくれていた。アトラスは、アナの心遣いに感動しつつも、再び寂しさがこみ上げてくるのを感じた。
「聞いて、アトラス」
アナは急にまじめな顔になって言う。
「アトラス、今までここで学んだことを忘れては駄目よ。あなたには、地球のことや星のことを通じて、科学のことや自然の力の働き方について教えたわね。そして、何が善なのか、価値あるものなのかということや、不動で不変の真実について教えてきたつもりよ。これらは、『創造主(Maker)』から得た知識なの。この知識をしっかり覚えておきなさい。そして、あなたのお父さんの教えてくれることと、ここで得た知識を常に比較しなさい」
そこまで言って、アナは一度言葉をおき、少し声を潜めて続けた。
「もうゲーンのことは良くわからないけれど、あなたのことなら分かるわ。いい?アトラス、これからは自分の行動を、私が教えた真理に照らし合わせてみることを忘れないで。利己的に行動をしたら、きっと悪いことが起こるわ。でも、私欲を抑えている時は、何でもうまくいく。何も恐れる必要は無いわ」
アナはそういって一歩アトラスから下がると、やさしく微笑んだ。
「これからの旅は長くて辛いかもしれないけれど、いつでも勇敢でいてね、アトラス。それに、何よりも誠実でいなさい。この旅が運命で決められていたとしても、逆らわずに良い息子でいるように常に心がけるのよ(*1)」
この、アナの謎めいた言葉に、アトラスは
「良くわからないよ・・」
とこぼしたが、アナは首を振って、そんなことはどうでも良いと言う。
「とにかく、お父さんの言うことを良く聞くのよ。でも、あなたの天性の良さが失われないようにしなさい。分かったわね?」
「分かったよ、おばあちゃん」
「それなら、安心だわ」
アトラスは、アナに近づき抱擁を交わした。裂け目を登り上がり、しばらくその姿を目に焼き付ける。すると、アナがテラスへ出てきて手を振った。
「気をつけて行って来てね。3ヵ月後に会いましょう」
アトラスは手を振り返し、一息つくと父の後を追いかけて火山を登り始めたのだった。
注:
(この一番最後、とても訳しにくい。To be better son to your father than fate allowed him to be with him.直訳すると、運命が、(恐らくアトラスを)ゲーンとともに行かせる事を許したということ以上に、良い息子でいなさい)
- 2006/10/29(日) 10:24:44|
- アトラスの書
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